夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「高校生で金がない。責任も持てない。けど、どうしても産みたいって言ったあたしに、たっちゃんが言ってくれてな」


『この子の名前、何にしようか』


『許してもらえるまで、ふたりで頭下げよう』


『おれも会いたい。おれと冴子の子に、会いたいんだ』


「あたしだって同じ。お前に……翠に会いたくてな。死んでも産んでやるんだって」


母が、過呼吸を起こしそうなほど、豪快にしゃくりあげる。


目の奥が熱くなって、あたしは奥歯を噛んだ。


母が、あたしの手をそっと放す。


「生まれた時のお前、こーんなちっこくて。サルみたいで、宇宙人みたいで」


こーんなちっこくて、そう繰り返し、母はポロポロ涙をこぼして、


「えーん、えーん、って……泣いて……」


と両手に生まれたばかりの赤ちゃんをそっと抱く仕草をした。


「もう、可愛くて可愛くて、めんこくてな。こりゃ、陸上も高校も捨てただけの価値あったなって……あたし……」


母が言葉をつまらせる。


「命ってのは、こんなに眩しいもんだったのかってな」


母はポロポロ涙を流しながら、細腕でその子をそっと抱き締めた。


「この子のためなら何だってやってやるって。この命もくれてやろう、何だってしてやろうって、誓ったのに」


そして、母はあたしの左手を静かに掴んだ。


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