夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「それなのに、代わってやることもできんのか。ごめんな、翠……すまんな」


ごめん、ごめん。


翠、翠、すまんな、すまん。


何度も繰り返す母を、あたしは抱き締めた。


その体は想像していたより遥かに遥かに小さくて、華奢だった。


「すまんっ……母」


親を抱き締めた瞬間、涙の巨大ダムが大決壊して、たまっていた水が濁流になって流れた。


あたしは今日まで、本当に愛情を注がれてのうのうと生きて来たんだと、恥ずかしくなった。


「ごめんな、あたしがこんなことになって。迷惑かけて、すまん」


こんな華奢な体からあたしが生まれて来たのかと思うと、たまらなくなった。


本当は陸上を続けて、友達に囲まれながら高校生活をまっとうして、卒業する道を選択することだってできただろうに。


あたしを生まないという選択も、ふたりはできたのに。


それでも、周りの反対を押し切り、後ろ指を指されても、それでも。


この母は、あたしをこんなきらびやかな世界に送り出してくれた。


今のあたしと同じ、16歳という若さで。


その覚悟はどれほどのものだったのだろうか。


あたしには想像すらつかない。


出産の時、どれほどの痛みに耐えて、あたしをこの眩しい世界に送り出してくれたのか。


こんな、今にも折れそうな細い体ひとつで。


「なんでだ! なんで、あたしの娘なんだ! なんでこんないい女が病気にならなきゃならんのだ……」


あたしの頼りない腕の中で、母は譫言のように続けた。


< 334 / 653 >

この作品をシェア

pagetop