夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
あたしを16という若さで産んだ母は、ただ者じゃない。


スーパーサイヤ人よりも超人かもしれん。


モンスターだ。


吉田冴子。


あたしの母親であり、親友であり、恋人。


物心ついた時にはもう、母、と呼んでいたけど。


急に、呼んでみたくなった。


「お母さん……お母さん」


少し、照れくさかった。


母が少しびっくりした顔をしたあと、くすぐったそうに泣き笑いした。


「いいな、その響き。母もいいけど、お母さんってのもいいもんだ」


母は、泣くあたしの手を引いて、太陽が照り返す雪の歩道を歩き出した。


「お前はあたしに似てモテるなあ。病気にまで惚れられやがって」


ズビッと鼻をすすって、あたしは笑い飛ばした。


「しょうがないだろ。あたし、まじで美女だし」


涙をぐいっとこすって、母の手を握り返した。


ブフッと母が吹き出す。


「まあな。お前を産んだ女が、究極の美女だからな。どうしようもねえな、こればっかりは」


あたしと母は同時にプーと吹き出して、同時に背筋をしゃんと正した。


「な、翠」


「なに?」


「今日の夕飯は、親子どんぶりにしようと思うのだが」


ふと、思い出したのは、中学2年生の秋のあの日のことだった。


あたしがピアスをあけて、父と母が学校に呼び出された、あの日。



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