夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
たしか、あの日の夕飯も親子どんぶりだった。


「親子どんぶり、か」


あたしは吹き出して笑った。


「うむ、いいな、その響き。親子どんぶり。いい響きだ」


「そうだろ」


あたしと母は家に着くまでずっと手を繋いで、絶対に離れなかった。


繋いだ母の手は、春の木漏れ日のようにほかほかと暖かかった。












数日後、あたしの病名が明らかになった。


頭部の断面図の写真を指差しながら、長谷部先生が言った。


「脳腫瘍の中でも、髄膜腫は良性のものがほとんどです」


やっぱり、髄膜腫だった。


「翠さんの場合、ほら、ここ。この白く濁った塊の部分。分かりますか?」


前頭葉の後半部。


しかも、頭蓋底部の血管や神経が複雑に入り組んだところに、その腫瘍はあるらしい。


「今現在の大きさはやはり、約2センチといったところですね。だから、すぐにでも手術で取り除けば、ほぼ完治するでしょう」


あたしと母は希望の光が見えたような気がして、目を合わせて胸をなで下ろした。


「すべてを、取り除くことが前提ですが」


けれど、長谷部先生の一言が一筋の光を遮断した。


「しかし、場所が場所なもので」


長谷部先生が難しい顔で、頭部の断面図を舐めとるように見つめた。


「普通、良性の腫瘍は再発の確率が極めて低いものです。が、翠さんのように場所が場所となると」


手術をしても、細胞全てを摘出するのは難しいらしかった。


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