夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「えっ」


桜花、その校名を聞いた瞬間、あたしは雷に打たれたように硬直していた。


「もう、いてもたってもいられなくてな」


それで、昨日の午後の便の飛行機で、彼女の若奈ちゃんと一緒に戻って来たらしい。


スッと椅子を立ち、母が病室を出ていった。


「全部、監督から聞いたんだ」


あたしからは何も聞いていないのに、まるでネジでも外れたかのように、先輩はべらべらしゃべり出した。


「びっくりしたとかの問題じゃなかったよ。まさか、翠ちゃんがこんな事になってたなんて知らなかったから。夏井も花菜も、何も言ってこなかったし」


「いや、先輩」


あたしは目をパチパチさせた。


「悪いんだけど、何が何だか……いまいち」


よくわかんないのだ。


あたしが5日間も眠っていた間に何がどうなって、今どんな状況なのか。


考えれば考えるほど、頭の中で糸が絡まる一方だった。


小首を傾げていると、先輩がやわらかく微笑んで、


「しっかりしろよ、翠ちゃん」


ベッドの横のカード式小型テレビを指さした。


「いったい、あと何日寝てるつもりだったの?」


先輩の目が、微かに潤んでいた。


「……へ?」


ぼんやり聞き返したあたしを見て、先輩はフハと二枚目に吹き出して笑った。


「早くしないと、終わっちまうよ。夏の大会」


「……え」


開け放たれた窓から、夏の暑い風が一陣となって入り込んだ。


新品のカードを差し込み、先輩がテレビに電源を入れた。


小さなアナログ画面を見て、あたしは愕然としたし、何より言葉を失った。


画面いっぱいを独占していたのは、県立球場の得点板だった。

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