夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
補欠がどんなに頑張っているのか、あたしは分かる。


毎朝、誰よりも早く学校に来て、誰も居ないグラウンドで自主練をしていること。


授業中も野球の本ばかり見てるくらい、誰よりも野球が好きなこと。


授業中も野球のことばかりなのに、いざテストをするとちゃんと学年で20位以内の成績をキープしていること。


普段は無愛想なくせに、でも、人と話す時は必ずその人の目をまっすぐ見て、穏やかに話すこと。


そしてその目はいつも優しいということも。


普段は全然笑わないのに、たまに見せる笑顔が太陽光線よりも眩しいことも。


あたし、いつも見てるから分かるの。


補欠がどんなに毎日を頑張って生きているか、あたしすごくよく分かる。


だから、補欠のことを悪く言うやつがいたら、あたしが許さない。


例えそれが、日本を取り仕切る総理だとしても。


どっかの大企業の社長さんだとしても。


例え、神様であろうとも。


「こらっ」


その時、通り掛かった担任教師が、教室にひょっこりと顔を覗かせた。


「やけにうるさいと思えば」


仁部 慎二(にべ しんじ)。


30歳で、独身貴族の一味だ。


「また、翠か」


と呆れ顔の彼は通称、にべちゃん。



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