夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
翠辞書をパラパラめくる。


この辞書は、ミラクル便利だ。


全国、どこの書店を探したって見つけることはできない。


翠辞書には、あたしにしか理解出来ない単語や意味や、写真が満載だからだ。


電子辞書よりもハイテクだ。


小柄で華奢な体形。


黒に近いダークブラウン色で、さらさらのセミロング。


形のいい清楚な奥二重まぶた。


清潔感たっぷりの制服の着こなし方。


水色の蝶ネクタイ。


それを見て、3年生だとすぐに分かった。


1年生は臙脂色、2年生は紺色、3年生は水色。


南高の女子の制服は蝶ネクタイの色で学年がすぐに分かる。


彼女がじっとあたしを見つめてくる。


「あのう……」


検索、終了致しました。


翠辞書の検索結果、彼女の情報はひとつだけだった。


3年生。


一体、何者だ。


ジロジロ見ていると、彼女は1Bの教室をぐるりと見渡したあと、頬をほんのり桜色に染めて、一番近くに居たあたしに聞いてきた。


「あの……夏井くんて、このクラス?」


それはあまりにも突然で唐突で、いつもみたいに瞬時に返答することができなかった。


「……は?」


左の頬がピクリとつった。


自分でも、顔面がひきつってるのだとハッキリ分かった。



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