勇者様と従者さま。

認めたくはないがな…

 エヴァは、いつでも抜けるよう聖剣姿のシュリを握りしめて、あたりを見回した。

 残念ながら、エヴァは魔物の気配には鈍い。

 シュリはああいったけれども、エヴァには魔物がどこにいるかなどさっぱりだ。

「…来るぞ」

 ぼそり、とエヴァの手の中でシュリが呟く。


 …その、言葉通り――

 薄闇の向こうから、近づいてくる人影があった。


 徐々にその姿がはっきり見えはじめる。

 豪奢な、しかし古臭いデザインのドレス。

 白い…青白い肌。

 濃い金の髪に飾られたリボン。

 そして――生気のない、顔。

「ゆっ、ゆうれい!」

 エヴァが思わず叫ぶ。…その声に滲むのは、恐怖よりも好奇心。

「魔物と言っておろうが!」

 すかさずシュリが訂正する。

 続けて、魔物に向けて声を張った。

「…おい、聞こえておろう。一体何がしたいのだ、悪趣味な姿をしおって」

 少女姿の魔物は顔をしかめた。

 陰気な見た目と相まって、正直恐ろしい表情である。


「…あーあ、帰ってくれりゃいいのに」

 その小さな口から――容貌に不似合いな、少年めいた声が漏れた。

「まさか本当に会うなんてね…」

 不機嫌そうにシュリを見遣る。

「正直あんたを破壊できるわけないんだよ。あーあ、また封印に逆戻りかあ…」

「…破壊?それはあやつの意向か?」

 シュリの問いに、魔物は舌打ち。

「…っ、と。いけない」

「…話せ」

「やだよ、怖い怖い<ハルジニア>に怒られるから」

「…シュリ」

 そこに口を挟むエヴァ。

「…この人、あまりにも下っ端っぽくてかわいそうなんですけど」

「ああ、そうそうそうなんだよ!お優しい勇者様!…お優しいついでにここで聖剣もろとも死んでくれたら助かるんだけど!」

「…あるじ」

 シュリが呆れたように息を吐いた。

「魔物に同情してどうする。こやつはこう見えて小狡い奴ぞ」

「いえ、でもなんだかあんまり迷惑でもなさそうですし」

「魔物は腹が減れば人を襲う。それにこやつ、幽霊を騙ってこの街をここまで荒れさせたのだぞ。従者もどこかにやってしまうし…迷惑でなくてなんだという」

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