勇者様と従者さま。
 その瞬間。

 エヴァの姿が消えた。

 否、バランスを崩して転んだというほうが正しい。

 とにかく魔物の爪は空を切る。

「手間かけさせんな…よっ!」

 魔物はすかさず、爪の向きを変えるが。

 そのときにはもう、絹の靴に包まれた足を聖剣が貫いていた。

「…何っ」

 瞠目する魔物。

「…っ、下、空いてましたもの!」

 遠くにいるエヴァを狙う構え。

 一旦潜りこんでしまえば守りはがら空きに等しかった。

 エヴァは転んだ勢いのまま、魔物の足元まで滑り込んだのだ。

 床にはいつくばるようにして、腕を目一杯伸ばして。

 ひどく格好のつかない姿勢で、エヴァは勝利を宣言した。

「…あーあ、くっそまた封印かよ…」

 諦めたようにぼやく魔物の足元で――白銀の光が爆発した。



 魔物は消えていった。

 あとに残ったのは、紙のようなもの。

「…はあ、はあ…」

 エヴァはまだ肩で息をしながら、なんとか立ち上がる。

「…よくやったな」

 シュリが精神体で現れた。

「…だめかと思いました」

「うむ」


 エヴァはあたりを見回した。

「何も、変わりませんね」

 シュリも頷く。

「あやつの言ったことは本当だったらしいな」

「…それで、従者さまは?」


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