ホワイト・メモリー
田辺のプレゼンは比較的簡潔にまとまったものだった。時間もちょうどいい。敵陣のプレゼン中に相当戦略を練っていたのだろう。さすが先輩である。塚越の表情はまんざらでもなさそうだった。しかし、やはり何かしっくりこない感じが残る。

「以上。かな?」

田辺が席に着くのと同時に塚越が言った。功には、それが何かの合図であるように感じた。

「ちょっと付け加えてもいいですか」
「なんや」
「SOXは、伝言ゲームみたいなものです」
「ほう」

塚越が身を乗り出す。

「インプットしたものを最後の人が受け取るまで、間違えないように伝えていく活動。だから伝言ゲームです」
「なるほど。ゲームかいな。面白そうやないか。んで?」

会議室は、コンサルからクライアントに対する一方的なプレゼンの場から一転して、リズミカルなコミュニケーションの場と変わった。敵陣は眉間にしわを寄せて、功の勝手な行動に苛立ちを隠せない様子であった。プレゼンを行った田辺や他のチームのメンバーは「またか」という風に少々あきれていた。
一方で、緊張のあまりうつむき加減だった菊池は目を輝かせて功を見つめる。田口は相変わらず表情を変えず、深く椅子に腰掛けたままだ。
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