ヒトノモノ
今まで何度も身体を重ねてきたけど、この日のセックスだけは忘れられないものになった。
啓介があたしの中で果てて、その痕跡を指で確かめた時、身震いした。
・・・やっぱりいつまでもこんな関係じゃだめだ・・・
「ねぇ・・啓介。」
「ん?なに?」
隣で横になっている啓介はあたしの胸を触りながら返事をする。
あたしはその手を払いのけて言った。
「奥さんと別れて・・・」
今まで一度も口にしたことがない言葉・・・
絶対に言ってはいけない言葉・・・
啓介は何も言わなかった。
「あたしね、啓介が欲しいの。心も身体も・・・全部。」
「俺は今でも全部優子のものだろ?」
「違う・・・あたしは・・・《妻》っていう立場も欲しいの・・・」
きっとこういう言葉は男の人には恐怖でしかないんだろう・・・
啓介の表情が強張った。
「それが無理なら・・・」
あたしは目をとじ、啓介を見ないようにして言った。
「もう、別れてください・・・」