magnet


後ろには棚。前には湊くん。


「いやこれ何」


湊くんは返事しない。それどころか私の髪に手を伸ばす。


スルリと指が抜けて、指が首筋に触れて、ゾワリと全身の毛が逆立つ。


それにより、キュッと目を一瞬閉じて目を開いた時に聞いた言葉は


「これ、どうやったら染めても傷まないんですか」


「は?」


呆気に取られてポカンとした。


その間にもまた髪に指を絡ませてくる。


警戒していた自分が恥ずかしい存在に思えた。よくよく考えたらいつも口論している仲だからそれはないと気付くのに。


言動が行動がいつもと違ったから狂ったのだ。それすなわち湊くんのせい。


「……私、染めるのすごく上手いんだよ。湊とは違って」


「何気に呼び捨てにしましたね。先輩にそれされるとムカつきます。後馬鹿にするのもいい加減に……」


――カシャリ。


「「は?」」


聞きなれない金属音によって珍しく希少にあり得ないけど声が重なった。






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