magnet


きっとそのまま帰るのだろうと思ったのは間違い。


「同情はしてない。ただ、心菜が泣きたい時どうすんの?って話」


間違いで。また、そんな話。


愛架も仁も同じような事を言っている。


「泣くわけ、ない」


「俺には泣きたくて仕方ないように見えるけど。泣きたいなら泣けば?愛架も心菜にそう言わなかった?」


「……」


「それに、俺が好きで心菜に構ってるだけだから気にしなくてもいいよ」


相変わらず気だるそうな声で話しているのに一つ一つの言葉がのし掛かってくる。それは息苦しい重さじゃなく、心地よい重さだった。


目を閉じて、開いて。


見える景色は変わらない。ただ、弱さを見せたくなった。


「……苦しい」


それは、たった一言の弱さ。




< 174 / 215 >

この作品をシェア

pagetop