magnet
何とか辛うじて残っていた意志で口をつぐんだ。
静寂とは程遠い放課後特有の喧騒。
「もう一人で抱えなくてもいいよ」
「……うん」
「愛架の言いたい事と俺の言いたい事、一緒だった?」
「……は?」
よくわからない一言にポカンと仁を見上げれば一点を見つめている。反射的に視線の先を見れば黒い髪が廊下の角からチラついていた。
古典的な隠れかたに呆れる他ない。
「愛架」
名前を呼べばヒョコッと角から顔を出して苦笑い。
「帰ろうと思ったら話しててさー。悪いとは思いつつも……あ、言いたい事はそうだよ……えーっと」
とモゴモゴと口ごもる。その様子に少しだけ笑みが零れる。
「じゃあ、三人で帰ろ」
いつもの調子で、だけどいつもと違う心構えで言えば、表情を明るくして大きく頷いたのだった。