First love~awaikoi~
やっと二人は一緒に泣いてくれるかもしれない。

それとも、「お前のせいだ!」とお父さんが怒鳴り、

お母さんは泣きわめいて・・・・・・。

私、静かに死んでいられないかも。

「―――おい! どうしてこの背広をクリーニング

へ出しておかなかったんだ!」

朝の、お父さんの怒鳴り声が、まだ耳もとで

聞こえているような気がする。

「言ってくれなきゃ、分からないじゃない。」

と、お母さんの言い返す声も大きくて

ちょうど玄関を出ようとして、あ、雨が

降りそうだ、と思って、振り向こうとした

私の手を止めさせた。

「いつも、そこへかけてあるんだ。見りゃ

分かるだろう!」

「知りません、そんなこと。口紅でも

ついてるなら、自分で出したらいいでしょ。」

本当は、折りたたみの傘をとろうと思ってた。

でも、二人の口論が、外に聞こえてしまうと思う

と、恥ずかしくて、やりきれなくて、そのまま

私は玄関を飛び出し、力いっぱいたたきつけるように

ドアを閉めていた。

それで良かった。歩き出した私の耳に、

聞き慣れた音が―――お父さんがお母さんを

殴る、バシッという音が聞こえて来たから。

私は足を速めて、遠ざかりたかった。

自分の家から、逃げるように、遠ざかっていった。

信号は、いつまでたっても変わらない気がした。

こんな冷たい雨の中で待っているから、よけいに

長く感じるんだ、と私は思った。

それにしても、こんなにぬれたのは初めて。

スカートまで、雨を吸って、重い。

くつも、中

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