月の下でキスと罰を。
「帰って。もうここには来ないでくれ」

「おい」

「奥さんに検査の結果を話して、ちゃんと治療してください。家族の為に生きなきゃ」

「瀬良……」

「僕は、大丈夫だから」

 また、ドアがガチャガチャと鳴る。

「帰ってくれ!!」


 普段、おとなしい瀬良が大きな声を出した。手で顔を覆っている。

 帰って。もう来ないで。

 瀬良は、小田桐にそう言っている。

 ドアの向こうは窺い知れないが、もう物音がしなくなっていた。

「……」

 ドアに向かって立って、そのままじっとしている瀬良。肩は震え、大きく呼吸をしている。


「うう……」

 絞り出すような瀬良の声。

 泣いている。そんなところを見るのは初めてだ。泣かないで、どうしたっていうのか。


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