道摩の娘
「…まあ、お前たちなら妥当なところだとは思うわ。得体の知れないのが混じってはいるけど」

 超子はちらりとりいを見る。

(…晴明に言ってくれ)

 晴明に連れて来られただけのりいは憮然とした。

「しっかり働きなさいよ、じゃあね」

 それを捨て台詞に、超子は去っていった。


「…すごい方だ」

 りいは思わず呟いた。

 保憲が苦笑する。

「なにせ気位が高くてな。晴明とあまりに馬が合わなくて手を焼いている」

「…一方的に噛み付かれてるだけですけどねえ」

 だが晴明は飄々としたものである。

「お前のそういう態度が超子様の気に障るんだ!少しは遠慮というやつをだな…」

「保憲兄さんみたいなのが二人いても面白くないと思いません?」

「…晴明…」

 説教する気力も失ったか、保憲はがっくりとうなだれる。

 …りいは、彼に大変な親近感を持った。

 きっと晴明を弟弟子に持ったときから多大な苦労を重ねているのだろう。できることならその背中を叩いて慰めてあげたい…


「そういえば、何のために呼ばれたのかわからぬのです」

 ふと、思い出して言う。

 尋ねる暇もなくここまで連れて来られたのだ、わかるはずがない。

「先程の方は、妹姫様のため、とおっしゃっていましたが…」

「…貴族の姫君がさらわれてるって、知ってたよね?」

 晴明と保憲は一旦顔を見合わせ、晴明が話し出した。

「ああ。市の噂で」

「藤原様にも幼い姫君がいるんだ。さっきの超子様の妹の詮子様」

「…ご成長のあかつきには入内(じゅだい)なさる方だからな。藤原様も心配だろう」

 保憲が横から補足した。

 未来の女御。

 父親にとっては、愛娘であると同時に、大切な政治の駒でもある。

 陰陽寮が依頼を受けたのも当然と言えた。
< 46 / 149 >

この作品をシェア

pagetop