道摩の娘
「…た、助かったわ」
超子はまだ青い顔で礼を言った。
ふと首を傾げてりいを見つめる。
「…お前は父様(ととさま)のところに行かないの」
「私は藤原様にお目通りできるような身分ではございませんので…」
りいがそう言うと、超子はころころと笑った。
「だってお前、わらわと会ってるじゃないの」
花が綻ぶような笑顔だった。
つんとしていた顔に年相応のあどけなさが浮かぶ。
「はあ…しかしそれは姫が出歩いていらっしゃるからでは」
「何よ!わらわに文句でもあるの!?」
「いえ、まさか!」
りいは慌てて手を振る。
超子はしばしむくれていたが、やがて表情を曇らせ、はあ、と息をついた。
「…詮子はね」
独り言のように呟く超子。
「まだ幼いのだけど、いい子、なのよ」
その口調は優しげなのにどこか不安そうで。
妹姫をかわいく思う気持ちと、心配が入り混じっているのだろう。
幼い姫ばかりがさらわれていると聞く。
そして、詮子はまだ幼い姫だ。
「鬼も、あんなかわいい子を見たらきっと…」
超子はりいと目を合わせないよう俯く。それでも揺れる瞳は隠せない。
「…妹姫様が、ご心配なのですね」
「…そうよ。気になるわよ」
超子がついと指し示したほうを見ると、簾の奥に人影が見えた。
恰幅の良い男性の影と、それに向かい合う二人の男性。
二人のほうは、考えるまでもなく保憲と晴明だと解るから、もう一人が超子の父君なのだろう。
「…何よ。はしたないとわかってるわよのぞき見なんて」
部屋からは恐らくこの木陰は死角。確かに見事なまでののぞき見である。
超子は開き直ったように堂々とりいを見返した。
りいは思わずくすりと笑ってしまう。
超子はまだ青い顔で礼を言った。
ふと首を傾げてりいを見つめる。
「…お前は父様(ととさま)のところに行かないの」
「私は藤原様にお目通りできるような身分ではございませんので…」
りいがそう言うと、超子はころころと笑った。
「だってお前、わらわと会ってるじゃないの」
花が綻ぶような笑顔だった。
つんとしていた顔に年相応のあどけなさが浮かぶ。
「はあ…しかしそれは姫が出歩いていらっしゃるからでは」
「何よ!わらわに文句でもあるの!?」
「いえ、まさか!」
りいは慌てて手を振る。
超子はしばしむくれていたが、やがて表情を曇らせ、はあ、と息をついた。
「…詮子はね」
独り言のように呟く超子。
「まだ幼いのだけど、いい子、なのよ」
その口調は優しげなのにどこか不安そうで。
妹姫をかわいく思う気持ちと、心配が入り混じっているのだろう。
幼い姫ばかりがさらわれていると聞く。
そして、詮子はまだ幼い姫だ。
「鬼も、あんなかわいい子を見たらきっと…」
超子はりいと目を合わせないよう俯く。それでも揺れる瞳は隠せない。
「…妹姫様が、ご心配なのですね」
「…そうよ。気になるわよ」
超子がついと指し示したほうを見ると、簾の奥に人影が見えた。
恰幅の良い男性の影と、それに向かい合う二人の男性。
二人のほうは、考えるまでもなく保憲と晴明だと解るから、もう一人が超子の父君なのだろう。
「…何よ。はしたないとわかってるわよのぞき見なんて」
部屋からは恐らくこの木陰は死角。確かに見事なまでののぞき見である。
超子は開き直ったように堂々とりいを見返した。
りいは思わずくすりと笑ってしまう。