道摩の娘
「よかった。早速だけどりい、泊まるとこないなら家来る?」

 有り難い申し出だ。実際困っていたのだ。だがそれに飛びつくのも図々しい気がして首を振った。

「それはさすがに悪…」

「気にしないで。っていうか、話聞いた感じだとこれから道満殿来るんでしょ?あの人なかなか帰ってくれないからさ、連れてってほしいんだ」

「…主人がご迷惑を」

 りいはがっくりとうなだれた。





 やっぱりというか、安倍邸は広かった。

 大貴族の邸宅とはいかないが、それでもりいにとっては充分別世界だ。


「おお、遅かったな。…友達か?」

 庭に面した廊で酒を呑んでいた男性が振り向いた。

 厳つい顔だが、人好きのする笑みを浮かべている。


「父上…明日もお早いのでしょう?」

 晴明が嘆息。

 顔立ちはあまり似ていないが、親子だけあって人当たりのいい雰囲気はそっくりだ。

「父上、この子、あの道満殿の供の子です」

「ああ、あの!」

 あの、で通じている…

 りいは頭が痛くなった。

「し、主人がいつもご迷惑をおかけしまして…」

 平伏するりい。

「はは、まああの人愉快だからなー…ゆっくりしてけよ」

「はあ…どうも」

「りい、案内するよ」

 晴明が袖を引いた。


 通されたのは広くて綺麗な部屋。

「いや、あの、私は廊下とか庭で充分だぞ!?」

 晴明が呆れた顔をする。

「それじゃ泊まってる意味ないって。…余ってる単衣出してくるから待ってて」

「何から何まですまない」

「いや、俺のほうこそりいを攻撃しちゃったしね。ごめん」


 晴明はどこか不思議な奴だが、悪い人間ではなさそうだ。

 幸運だったなと思う。

 りいは微笑んだ。
< 6 / 149 >

この作品をシェア

pagetop