道摩の娘
 翌朝。一応は遠慮したものの、りいは朝餉までご馳走になっていた。

 贅沢なものではないが味はいいし、朝から食べるものがあるということはりいにとってありがたい。

「わ、りい、何泣いてるの?」

 晴明が驚く。

「いや…ちゃんとした朝餉なんて久しぶりで…」

「旅また旅じゃねえ…おいしい?」

 りいはぶんぶんと音がするほど頷いた。

「そう、よかった。伝えとくよ」

 その言葉に、ふと、誰が作ったのだろうと思う。

 使用人でも雇っていそうな口ぶりだが、昨夜から姿は見ていない。


「そういえば、お父上は?」

 りいが起きたときにはもう姿が見えなかった。

「ああ、出仕」

 晴明が、何でもないことのように言う。

「そうか…って、お前は行かなくていいのか?」

 確か陰陽寮の役人だと言っていたではないか。

「俺、今日ずる物忌なんだ」

 晴明がにっこりした。

「ずる物忌って…」

「いい言い訳じゃない?陰陽師が物忌ですって言ってるんだから」

 にこにこする晴明の前でりいは脱力した。

「それに…今日道満殿が来るからね。そろそろかな」


 晴明が残っていた粥を啜りこんだ。

 彼が椀を置くのとほぼ同時に、りいにとっては聞き慣れた、聞き慣れすぎた声が聞こえてきた。


「おおい!小僧いるかい!!俺だよ!道満だ!」



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