秘密

「安心して降りて来い、奏」

笑顔で両手を上に差し出す佐野君。

そんな事言われても…気になって降りれないよ…

私はしぶしぶ梯子に足をかけ降り始めた。

「…あんまり上…見ないでね?」

「努力する」

そろそろと梯子を降りて行くと、後数段で下にたどり着く所で、身体がふわりと軽くなった。

佐野君が私の腰を掴み、抱えて下に降ろした。

「着地成功」

「…見てないよね?」

「残念ながら見えなかった」

「…よかった」

「嘘。ホントは見えた」

「えっ?」

私の腰を掴んだままの佐野君を振り返ると、佐野君は悪戯っぽく笑っていた。

「ははは。冗談だよ、そんな簡単には見えないから」

「…ホントはどっちなの?」

「さあ?どっちかな?」

「…意地悪…」

佐野君を軽く睨むと、私を背中からギュッと抱き締めた。

「…その顔、反則…また気持ちいい事したくなる」

「…ここ学校の屋上だよ?…それに…バイト遅れちゃうよ?」

「…ですよね?残念…ははは」

佐野君は身体を離し、ドアに向かって歩き出した。

……私も…残念だよ…佐野君。
佐野君と二人きりの時間が終わるのが残念…

「…あの、佐野君、バス同じだろうし、一緒に帰らない?一度家に戻るんだよね?」

ピタリと佐野君は立ち止まり、肩越しに私の方を振り向いた。

「…いいの?一緒に帰っても」

「…あ…彼女…に悪いよね?あはは…ごめんね?先に帰って。私、図書室で本返さないといけないんだった…」

そう言って佐野君の横を通り過ぎようとしたら、手を掴まれ、その先に進む事が出来ず、立ち止まってしまった。

「…本返すの明日にして…一緒に帰ろう」

「……うん」

そのまま佐野君に手を引かれ、ドアを開け階段を降りる。

三階の第三校舎は教科専用の校舎なので、放課後と言う事もあって、あたりはひっそりとしていた。

「…誰も居ないし、はは」

「…そうだね」

「一端教室に戻る、鞄取って来ないないと」

佐野君は手を繋いだまま歩き出し、私はその少し後ろを歩く。

どうか、せめて教室まで、誰にも会いませんように。

もう少しだけ佐野君の手のひらの温もりを感じていたいから。

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