秘密

メールの返事が来ないまま、昼休みになっていた。

隣の空席に目をやり、再び携帯を開き、履歴から奏に電話をかける。

暫く呼び出し、留守電に切り替わり、携帯を閉じる。

…奏……何があった?
連絡も出来ないのか?

担任なら知ってるかも…

職員室に行こうと席を立つと、手に持ったままの携帯が振動して、見ると奏からのメール。

『今、屋上に居ます』

やっと連絡がとれた事にホッとしつつ速攻返信。

『すぐ行く』

鞄を掴み屋上へと向かった。


バタバタと階段を二段飛ばしで上がり、第三校舎の屋上に出るドアを開けると、そこには誰も居なくて、外に出てキョロキョロと辺りを見回す。

「……佐野君」

背中から声がして、振り返るとドアの横に奏が立っていて、右腕は首から三角巾で吊るされいて、その姿に俺は驚いた。

「…どうしたの?それ…」

あの後、やっぱり何かあったんだ。

…佑樹…ブッ殺す…

奏に近付き、明らかに泣いた後であろう、その黒目がちな瞳を覗き込む。

「…階段で、転んで、捻挫しちゃって…後、手の甲の部分に少しヒビが入ってるって、朝保健室に行って、そのまま病院に連れて行かれたの…あの…佐野君、今朝はごめんね…」

「……佑樹か?それやったの」

奏の痛々しい腕を指差す。

「…ち…違うよ、ホントに階段で、転んだんだよ…私、ドジだから、よく転ぶの、あはは…」

俺から視線を反らし、乾いた笑いを出す奏。

奏は必死に誤魔化そうとしているみたいだけど、その態度は、誰の目から見ても、それが嘘だと言う事が明らかだった。

…確か、以前に佑樹に叩かれて、頬を腫らしていた事があったよな?

…保健室で奏がベッドから落ちた時、肩にアザがあった。

その時も確か転んだって…

その前の美樹との会話……

……まさか…

奏は佑樹に頻繁にこんな事をされてるんじゃないか?

「…あの、私、今日はもう帰るの、櫻井先生が送ってくれるって…どうしても佐野君に今朝の事、直接謝りたくて、学校に忘れ物したからって言って、一度戻ってきてもらったの…」

「…そうか、そんじゃ早く戻らないとな、それと。今朝の事は全然気にしてないから」

俺は笑って奏の頭に手を置いた。



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