秘密
「はい。奏ちゃん♪あ〜んして?…ああっ!お前が食うなよ!茜!」
…大根、旨い。
やっぱりおでんは大根が一番旨いな、うん。
「…静さん、大丈夫です。一人で食べれますから…」
「え〜?左手フォークじゃ食べにくいだろ?お兄ちゃんが食べさせてあげる♪茜!邪魔すんな!」
「一人で食べれるって言ってるだろ?バカ静」
「またお前は!バカって言う方がバカなんですぅ〜!」
……やっぱりバカだ。
「はいはい、静かに食べなさい。静?あんたって名前の割にはホントに騒がしいわね?少し落ち着きなさい、いい歳なんだから…静と茜、足して割ったら調度よかったのに…はぁ…」
ため息をつく母。
「だって、母さん、茜の奴、直ぐに兄貴に向かってバカバカ言うんだぜ?」
「…だってバカじゃん」
ボソリと呟く俺。
「何をっ!」
「あのっ、静さん、ビール注ぎましょうか?」
見かねた奏がビール瓶片手に立ち上がる。
ついでにそれで殴ってやれ、奏。
「お酌してくれんの?奏ちゃん、わ〜い♪ありがと♪」
「はい。あ、お父さんも、どうぞ?」
「ははは。ありがとう、奏さん」
それから奏は父さんと兄貴の間で、酌しては笑いながら、二人と楽しそうに話していた。
やっぱり可愛い女の子の(奏はとくに)酌は嬉しいらしく、兄貴はともかく、父さんまでもが鼻の下を伸ばしていた。
…全く、だらしない…
…まあ…仕方ないか。
今日だけは勘弁してやる。
実は今朝、兄貴と奏の会話を、バスルームの少し開いたドア越しに聞いてしまった俺。
兄貴は普段はあんな子供みたいだけど、俺が一人暮らしをしたいと、両親に説得してくれたのも兄貴だった。
当時、夢にうなされて何度も夜中に飛び起き、その時必ず兄貴の顔が目の前にあって、ここはあの決勝戦のスタジアムじゃ無いんだと俺を安心させた。
何も言わないけれど、俺の事を理解してくれている。
バイクの免許を取れと教習所にも通わせてくれたのも兄貴。
俺はバイクに夢中になり、辛かった過去の思い出も、徐々に薄れていった。
俺が将来教師になるかもと話した時は、自分の事のように嬉しそうな顔で、頑張れよ。の一言。
……しず兄ちゃん。
感謝してるよ……(今日だけな)