秘密
「…髪…乾かさないとな」
私の肩から顔を上げて、佐野君は照れたように笑う。
私は熱に浮かされたように、恐らく真っ赤になっているに違いない顔で、佐野君に微笑み返す。
恥ずかしかったけど、佐野君、ありがとうって言ってくれた。
いつも貰ってばっかりの私が、佐野君にあげたキスのプレゼント。
あげたつもりが私の方が、逆に貰ってしまったみたい。
佐野君は棚の中からドライヤーを取り出し、その場に座ると、
「ここ、座って」
佐野君の開いた両足の間に私がちょこんと座ると、私の髪を乾かし始める佐野君。
「…熱くない?」
「…ううん、平気」
「髪、綺麗だね」
「そうかな?スルスルしてて、まとまりにくいよ、ヘアピンも直ぐに落ちちゃうし、佐野君はクセ毛?」
「うん。クセ毛」
「フワフワでキラキラしてて…綺麗」
「ははは。脱色し過ぎて結構ボロボロだよ」
「そんな事無いよ…凄く素敵だよ、私も少し染めようかな?真っ黒で重たい感じだし…」
「…俺は好きだ…奏の髪の色…」
……佐野君。
私の髪の色、好きって……
ただそれだけの事なのに、私自身の事が好きって言ってるみたいに聞こえて、勘違いしてしまった私の心臓はドキドキと脈打つ。
私の髪に触れる佐野君の指。
指先で掬われてはサラサラとこぼれ落ちる。
「よし、乾いた」
ドライヤーのスイッチを切り、私の頭に軽くポンと手を乗せる佐野君。
「…ありがとう、佐野君」
「いいって、さ、俺も風呂入って来るかな…」
言うと佐野君は部屋から出て行こうとするけど、ドアの前でピタリと立ち止まり振り返ると、
「あ。なるべく部屋から出るなよ?奏…」
「え?…どうして?」
部屋から出るなって…
「……そのカッコ…見られたりしたら…」
…あ。
……忘れてた。
確かにコレを見られるのは恥ずかしい…
「…バカ静が暴走する」
「あはは。佐野君、ホントに静さんと仲いいんだね」
「どうかな?」
「…静さんは佐野君の事、とても大事に思ってるよ」
佐野君はドアを開け、部屋から出ようとして、
「……それは知ってるよ」
パタンとドアを閉めた。