秘密
◆◆◆



何か言いたげな表情で俺をじっと見つめる奏。

ドライヤーのスイッチを切り、

「何?」

「え?何って?」

「なんか言いたそうな顔してるから」

「…あ、ちょっと、喉乾いたなぁって…」

…あ。

部屋から出るなって言ったんだった。

「なんか持ってくる」

「うん。ごめんね」

「いいって、ちょっと待ってて」

部屋を出て階段を降りてリビングに入ると、父さんは居なくなっていて、兄貴だけがソファで腹を出し、間抜けな顔で眠っていた。

「……奏ちゃ〜ん…ぐふふ…」

下品な笑いを出して奏の名前を呼ぶな、バカ静。

あんな姿の奏、絶対兄貴には見せられない。

………それにしても。

…さっきの奏
……可愛かった…

まさかホントにキスしてくれるなんて思わなかった。

平静を装っていたけど、奏の指が唇に触れた瞬間、心臓が跳ね上がり、口から飛び出してしまいそうだった。

俺の気持ちは奏に伝わっているはず。

でもまだ俺自身に好きとは言ってくれない。

酔った時のはノーカウントだし。
今朝は兄貴に言ってたし…

「……奏ちゃ〜ん…お兄ちゃんと…いいことしようか…うへへ…」

………………ブチッ!

肘を肩まで上げて、全体重をかけ、それをそのまま兄貴の腹に振り落とす。

「ぐふぅっ!!」

ソファから転げ落ち、白目を向いてピクリとも動かない兄貴を放置して、冷蔵庫から500mlのミネラルウォーターを取り出し部屋へと戻る。

……全く、どんな夢見てやがるんだ?

ドアを開けるが奏の姿そこにはなかった。

下に降りたような気配はなかったけど…

「……奏?」

「佐野君、こっち」

声の方に目をやると、奏がベランダから手招きしていた。

窓を開けベランダに出ると、少し肌寒い風が微かに潮の香りを運んできた。

「星が綺麗だったから……」

手刷りに手をつき夜空を見上げる奏。

俺も同じように横に立ち、空を見上げる。

もう夏の星座に入れ替わった星の瞬きを、二人で眺めていた。

「……流れ星、見えないかなぁ…」

そう呟く奏の横顔がとても綺麗で、その頬に自然と手が吸い寄せられる。


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