秘密


「……クシュッ…」

延びかけた手がピタリと止まる。

「寒いだろ?部屋に戻ろ」

「…ううん、もう少し、ここに居る…」

小さく首を横に振る奏。

「なんか羽織るもの持ってくる」

部屋に戻り、クローゼットからパーカーを取り出し、再びベランダに戻り、奏の肩にかけてやる。

「ありがと、佐野君」

「大体そのカッコが悪いんだ、無理して着ることなかったのに、そんな…」

………エロいパジャマ…

「うん。でも…せっかくお母さんが買ってきてくれたから…」

「母さんの感覚は俺にはわからん…」

なんで普通のパジャマじゃないんだ?

「でも結構コレ可愛いよ?フリル沢山付いてて、付きすぎだけど…」

と、裾を摘まんで自信を見下ろす奏。

…その仕種…可愛過ぎる…

「はい、水…」

思わずニヤケそうになる口元を引き締めて、ベットボトルの蓋を開ける。

「ありがと」

ボトルを受け取り、口には付けずに、また夜空を見上げる奏。

「……綺麗だね」

「うん。でも流れ星は見えないかな?」

「やっぱり簡単には見れないか…」

「流れ星は真夜中とか、冬場だったらよく見えるよ」

「佐野君、流れ星見た事あるの?」

「何度もあるよ」

「いいなぁ、私、一度も見た事ない…」

「…それも珍しいな」

「ね?ホントに願い事叶うかな?」

「それはどうかな?なんか願い事あるの?」

「……うん」

「どんな?」

「……秘密」

「ははは。そうだよな?人に言ったら願い事叶わないとか言うよな?」

「うん。だから、秘密…」

そこから会話が途切れ、再び二人で星空を見上げていた。

奏の長い髪が風に乗って、隣に立つ俺の肘辺りを擽る。

奏の細く柔らかい髪は月明かりに照らされて、青く輝いて見える。

その髪を手で掬うと、指の間をサラサラと流れていく。

「……佐野君」

夜空を見上げたままの奏がそう言うと、

「何?」

「私ね、佐野君と知り合えて、ホントによかった、毎日が楽しくなった、今までは何となく毎日過ごしてたんだけど、最近は学校もそれ以外も、楽しい事が沢山あるんだって…みんな佐野君のお陰、だから、ありがとう、佐野君」


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