秘密


いつまでもその余韻に浸っていたいけど、随分と冷えてきた。

昼間は夏のように暑いけどまだ五月。

奏に風邪を引かせてしまう。
ホントに部屋に戻らないと。

「部屋に戻ろ」

「…うん」

部屋に入りカーテンを閉めると、奏はベットに腰掛け、

「あ。リュック、リビングに置きっぱなし…取ってくるね」

立ち上がり部屋を出ようとする。

ちょっと待て。

リビングにはのびているとは言え変態静が居る、そんな所にフリフリの奏を行かせる訳にはいかない。

「俺が取ってくる」

「……でも…」

「いいから」

「……あの…えっと…ね?」

「………?」

「……トイレに…」

……ああ。
トイレね…それなら仕方ない。

「ごめん、気付かなくて」

「…ううん、ちょっと行ってくるね…」

「俺も着いてくる」

「……着いてくるの?」

当然だ。

「うん」

「……恥ずかしいんだけど…」

「大丈夫だ、問題ない、気にするな」

奏を一人で行かせる方が大問題だ。

「…私が…大丈夫じゃないんだけど…」

何やらブツブツと呟く奏を促し部屋を出る。

リビングを覗いてみると兄貴はそのままの体制で眠って(気絶して?)いた。

よし、大丈夫。

「リュック取ってくるから、奏はその隙に行ってきて」

「………はい」

トイレに向かう奏を見送りつつ、忍び足でリビングに入ると、

「……茜ぇ…頑張れよ…」

…………寝言か。

「……はぁ」

ため息を一つついて、床に落ちている毛布を広げ兄貴にかける。

点けっぱなしのリビングの電気のスイッチをパチンと押して、

「…おやすみ、兄貴…」

リビングを出ると奏も戻ってきて、二階に上がり兄貴の部屋の前で立ち止まる。

「俺、こっちの部屋に居るから、なんかあったら夜中でも直ぐに呼んでいいから」

「…うん、ありがと」

「じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい、佐野君」

奏が部屋に入るのを確認してから、兄貴の部屋に入ると、俺用に布団が敷いてあり、そのままそこに倒れ込む。

目を閉じ頬に手をあてる。

今夜はいい夢が見れそうだ。



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