秘密

「話って何だろ?」

「私も行っていいのかな?」

「別にいいんじゃない?大した話じゃないだろ」

佐野君と校内の廊下を歩き、体育教科室と書かれた扉の前まで来ると、佐野君は、失礼します、と中に入って、私もその後に続く。

先生はデスクに腰掛けていて、私達を適当に座るように促す。

「先生、話って何ですか?」

佐野君か先生に切り出すと、

「膝の調子はどうだ?痛むか?」

「いや、痛くないよ…雨降りはちょっと疼いたりするけど、それ以外は全然普通、今日も奏乗せてチャリ漕いできたし」

「…そうか」

「何?話ってそれだけ?」

「いや、お前受験って言ってたから、将来の進路でも決まったのかなって思って」

「うん。一応…」

「はは。一応って何だ?自信が無いのか?」

「いや、そういう訳じゃ無いけどさ…」

佐野君は照れたように鼻の頭を指先でポリポリと掻いていた。

佐野君、高田先生みたいになりたいんだもんね、本人目の前にしてそれは言いにくいよね?ふふふ。

「…バスケ、続ける気は無いのか?」

「え?」

佐野君は少し驚いたような顔で先生を見る。

「俺が以前全日本の選手をしているのは知ってるよな?」

…先生もバスケやってたんだ。
佐野君よりも背高いし、それも頷ける、しかも全日本って…凄い。

「俺は才能もあまり無かったし、運だけでそこまで上り詰めたんだけどな…でもお前は違う、凄い才能があるし天才だよ…茜は…」

「…天才も…怪我すりゃただの人だよ…」

佐野君はうつ向き左膝を摩る。

「まあ話しは最後まで聞けよ、今日のお前の試合を見て思ったんだけど…お前みたいにパワーバスケのスタイルを変えれば、充分プロでもやっていけると思うんだ、瞬間の判断力、後ろにも目があるんじゃないかと思う程の視野の広さ、スリーの命中率。ブランクがあるとは思えない、実際お前と同じような怪我で、プロでも活躍してる奴は大勢居るよ…」

「…何が言いたいの?先生」

「実はな?俺の恩師でもある人が将来有望な選手を探してる、茜。もう一度バスケやってみないか?」

「…え?」

佐野君が顔を上げると、

「バスケの本場、アメリカに行ってみないか?」

……佐野君が…アメリカに?…


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