秘密
◆◆◆



教科室を出て廊下を歩いていると、奏が俺の手を握ってきて、

「……屋上、行きたいな」

「屋上?」

「うん。今日で練習最後って佐野君言ってたから…最後に、屋上から海見たいなって…」

「いいよ、行こうか」

奏の手を引き階段を上り、鍵の壊れたドアを無理矢理開けて外に出ると、潮風が、ビュウッと音をたてて流れ込んできた。

手すりの前に並んで立ち、高台から海を眺める。

「やっぱりここから見える海が一番綺麗だね…」

「……うん」

奏の前髪がふわりと風に煽られて、その綺麗な顔の輪郭が露になって、思わず見とれてしまう。

「…アメリカ…行きたくないの?」

……やっぱりそうきたか。

正直。先生の話を聞いてる時、胸が高鳴り、身体の奥がぞわぞわと疼き出してしまった事は否定できない。

だからと言って、はい行きます。と簡単にはいかない事はわかってる。

先生にも言ったけど、費用や言葉の問題、それに至るまでの経緯を考えても、やっぱりそれは難しい訳で。

すでに教師になると言う俺の夢も、心の中で形になり始め、具体的になりつつある。

……そしてなにより

奏から離れたくない。

ずっと側に居たい。

佑樹からも助けてやりたい。

今の俺に思い付く事はこれくらいで、アメリカなんて、そんな所に行ったら奏と合えなくなる、それだけは絶対に嫌だ。

「うん。行かないよ」

強くハッキリそう言うと奏は俺を見上げて、

「バスケット…大好きなんでしょ?もし…可能性があるなら…んっ…」

その言葉の続きを言わせる前に奏の唇を鬱いだ。

背中に手を回し、更に深く口付ける。

ゆっくりと唇を離して奏を正面から見つめる。

「何度も言わない、俺は行かない、教師になるんだ、そして、奏の夢も俺が叶えてやる」

「…私の夢?」

「前に言ってただろ?忘れたの?」

「………あ」

「…俺の言ってる意味わかる?」

「…でも、私には…」

「わかってる」

「……だけど…」

奏はうつ向き視線を反らした。

頬に手をあて再び視線を合わせる。


「奏が好きだ」




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