秘密
事故に遇ってしまったのは佐野君のせいなんかじゃないんだから、そんなに気を使わなくてもいいのに。
そう思っているのに、そんなふうに言われたら、それ以上の言葉が続かない。
3ヶ月の間に、今まで何の接点も無かったと思っていた佐野君と私はいきなり友達になってしまった訳だけど、こうやって佐野君を目の前にしていても、いまだにそれが信じられなくて。
様々な出来事が私の身に起こっていた筈なのに、私はそれらを何一つ覚えていない。
他の人から聞く私の話は、ホントにそれは自分の事なのかと、いまいち信じられない。
生活するのに不自由な事は無いんだけれど、やっぱり3ヶ月と言う空白の時間に、何を思い何を感じていたのか、意識せずにはいられない。
今までの私とはまるで違うその空白の時間。
一体私に何の心境の変化があったんだろうか?
ただそれだけが気になって、何とか思いだそうとしてるんだけど、考え出すと頭に靄がかかったみたいになって、瞼の奥が重たくなってしまって、軽く頭痛がしてきてしまう。
医師の言う事には、あまり深く考え込まない方がいいと言う事。
ある日にふと思い出す事もあるかも知れないし、そのまま一生思い出せないのかも知れない。
それは医学の治療法ではどうする事も出来ないらしい。
「思い出せるのかな……」
ぽつりと溢れてしまった独り言に、佐野君はトランプを配る手を止めた。
「……思い出せるよ」
「そうかな?」
「じゃなきゃ困るよ……」
「うーん…今の所は別に困ってる事はないんだけどな」
「……俺が、困る…」
「検温の時間ですよー」
佐野君が何か言いかけたんだけど、不意に引き戸が開かれて、看護師さんが病室に入ってきた。