秘密
それから暫くすると、私の担当の医師が当直明けで既に帰宅したと言う事で、研修医の岡崎先生が私の診察をしてくれた。
岡崎先生は、まだ学生なんじゃないかと思う程童顔で、前田さんよりも年下に見えてしまう。
診察によると軽い風邪だと言う事で、岡崎先生は抗生物質を処方してくれた。
「それから少し貧血気味だから、食欲無くてもきちんと食べるようにしてね?」
「はい」
岡崎先生は診察を終えると病室から出ていき、程なくして薬を持ってきてくれた。
「もうすぐ夕食が運ばれてくるから、食後30分以内に飲んでね、この赤いのを二錠と…、それから…」
岡崎先生が薬の説明をしてくれていると、先生の白衣の胸ポケットから院内専用の携帯が鳴り出して。
「あ。ちょっとごめんね?」
携帯に出る岡崎先生。
ほんの数秒会話して、直ぐそれをしまう岡崎先生のポケットから、鈴のストラップが下がっていて、チリンと小さな可愛い音がした。
あれ?
この音……、どかで聞いた事があるような……
岡崎先生のストラップをじっと見つめていると、それに気付いたのか先生は。
「ホントは音が鳴る物は着けちゃいけないんだけどね」
「とっても可愛い音ですね?」
すると岡崎先生はポケットから携帯を取り出し、ストラップを外すと私の前に差し出して。
「はい。あげる」
「え?いいんですか?」
「うん。いい加減外さないと、さっきも婦長に怒られたんだ」
「わあ。ありがとうございます」
私は岡崎先生からストラップを受け取り、それを目の前に持ってきて軽く揺すると。
チリン……
その音色はとても心地いいもので。
「この音……、よく聞いていた気がするんです」
「身近な音色だったのかも知れないね?携帯やキーホルダーとかに着けてたとか?じゃ、呼び出しだから行かなくちゃ、薬飲んだらゆっくり休んでね。何かあったら直ぐにコールして、お大事に」
病室を出ていく先生を見送って、私は暫くその鈴の音色を聞いていた。