秘密




「じゃ、僕は行くね?」


そんな私達の様子を見ていた岡崎先生はそう言うと、病室の扉を閉めて居なくなり、まりあちゃんは私のベット脇にちょこんと腰を下ろした。


「まりあ、あのおにいちゃん、ちょっと、にがて…」


それは佑樹の事だろう。


まりあちゃんは佑樹が訊ねて来ると、病室から居なくなり、何処かへ遊びに行ってしまう。


佑樹は子供があまり好きではない。


あからさまに態度に見せる訳ではないけど、そんな見せない態度でも、過敏な子供はそれを感じ取ってしまって、知らない内に避けてしまうみたいで。


佑樹が来ると、まりあちゃんに気を使わせてしまっているようで、私はそれが心苦しい。


「お兄ちゃん…、怖い?」

「うーん、こわいって言うか。にがて……でも、茜おにいちゃんは大好きだよ!」


確かに佐野君が来るとまりあちゃんは凄く嬉しそうで、佐野君にべったりで、佐野君もまりあちゃんにはとても優しい。


佐野君……


今日も来るかな?


毎日来てくれてるから、今日もきっと来てくれる。


今日洋介さんと会った事も話したいし、それにピアスも返さないと。


携帯で時間を見てみると、もうそろそろ佐野君がいつもやって来る時刻。


昨日、佐野君に毎日来なくていいと自分で言っておきながら、佐野君が来るのを心待にしてしまっている事に気付く。


この矛盾は何だろうか?


毎日来てもらうのは申し訳ないって思うのに、来てくれるのを心待にしてしまうなんて……


それと……
さっきの美里さん……


私に何か言いたげだった…


佑樹と言い争っていたけど、何があったんだろうか?


私はあの人の事も忘れてしまっているようで、佑樹とは随分仲が良さそうだったのに、私とは二年になってからのクラスメート?友達、とか?


根暗で地味な私が、ちょっと派手目であんなに可愛らしい女の子と友達だなんて、ちょっと戸惑うけど、佐野君だってあんな感じだし。


もしかして美里さんは佐野君の彼女?とか?


………あれ?


なんだろう……
胸がチクチクする……


「…えちゃん、かなでおねえちゃん!」

「え?」

「どうしたの?またおねつ?」


まりあちゃんは私の額に小さな掌を当ててきた。


やだ。私ったら、ぼんやりしちゃってた。


「ううん、熱はないよ、元気だよ、ごめんね?ぼんやりしてた」

「茜おにいちゃん、まだ来ないね?」

「うん。来ないね……」


佐野君。


早く来ないかな……



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