秘密
それから三人でテーブルを囲んで私はお茶をご馳走になった。
医師への道のりはまだ遠いな。なんて、小谷先生が呟くのを私は笑って聞いていた。
「小谷先生は精神科医になるんですか?」
さっき小谷先生がそんな事を言っていたので、私はそれを聞いてみた。
「へ?あー…うん。そうだよ」
「なぜ精神科医に?」
「あはは。奏ちゃん。こいつ医師のくせに血が苦手なんだよ」
「おい。言うなよ。恥ずかしーだろ?」
ふて腐れてそっぽを向く小谷先生。
そのしぐさが私よりも随分年上なのに、可愛く思えてしまった。
「普段散々お前から辱しめを受けているんだ、僕は、これ位は良いだろ?」
「確かに血は苦手だ…否定はしないさ…」
「お?開き直った?確かここに勤務したての頃、お前救命救急に配属されたよな。そんで初日、担ぎ込まれた患者を見て、卒倒して倒れた、あれは今でもこの病院の伝説になってる…あ。それと…」
「ワタクシが悪う御座いました。勘弁してクダサイ」
テーブルに両手をついて、額をゴチンとテーブルに押し付ける小谷先生。
他にも沢山の伝説がありそうで、聞いてみたい気もするけど、小谷先生が気の毒なので、私は話題を変える事に。
「精神科って、おもにどんな治療とかするんですか?」
すると小谷先生は顔を上げて。
「興味あるの?」
「はい。内面的な治療ですよね?興味あります」
小谷先生はテーブルに指を絡めて組み合わせた。
さっきまでとは違うお医者さんの顔になってる。
「精神医療って言うのは、精神障害、精神疾患、依存症を主な診療対象としてるんだ。他に分かりやすく言えば、潜在意識に働きかけて、過去のトラウマの辛い記憶なんかを和らげたりする催眠療法とか…」
催眠療法……
……潜在意識。
過去の……記憶?
「あの……」
「ん?何?質問?」
「……失った記憶を呼び戻す事って出来ますか?」
「催眠療法の事?」
「……はい」
「そうだね。過去の事例での成功例はあるかな?」
「あのっ、私にその催眠療法……、やっていただけないでしょうか……」
「え?」
「奏ちゃん、今はそんな事より怪我の治療の方が…」
岡崎先生が横から何か言ってきたけど、私は小谷先生はの方しか見ていなかった。
「あのっ、私、事故に遭ってからの、過去約3ヶ月の記憶が無いんです……」
「記憶が……?」
「はい…お願いします。小谷先生。私……、どうしても思い出したいんです」