秘密
兄貴の部屋を出てリビングに戻ると、そこに父さんの姿はなく。
「父さんは?」
夕飯の支度をしている母さんに聞いてみた。
「直ぐにお風呂に行ったわよ。茜もついでに一緒に入ってらっしゃい?」
……それは嫌だ。
温泉ならともかく、年頃の息子が父親と風呂になんか入れるかよ。
色々な意味で………
「俺は後から入るよ」
「あ。そ」
母さんの素っ気ない返事を聞きながら、ソファーにゴロリと寝そべり、テレビをつける。
自称ワイルド芸人が、そのワイルド過ぎるセコいネタを種に異様にウケていた。
「……ぶふっ」
冷静に考えたら面白くも何ともないのに、つい笑ってしまうのは何故だろうか?
「ねぇ、母さん」
「んー?何−?」
「兄貴に彼女でも出来たの?」
「えっ?静に彼女出来たの?」
「いや、わかんないけど、母さんなら知ってるかと思って」
「静からは何にも聞いてないわよ?」
「ふーん。そっか、兄貴の部屋が空になってたから、全部売ったって言うし、彼女でも出来たのかなーって」
「あははは。何だその事か」
「母さん、知ってるの?売り払った理由」
「あれはね?茜の…」
「お帰り。茜」
母さんの声に被さって、父さんがリビングに入ってきた。
「うん。ただいま。父さん」
「あら、あなた、もう上がったの?ちゃんと洗った?」
「ちゃんと洗ってるよ……」
「おつまみまだなのよ、も少し待ってて」
「後でいいよ。茜、ちょっと父さんの部屋に来てくれないか?」
「……うん」
ここじゃ出来ない話なんだろうか?
一体何の話か気になるけど、部屋に行けばわかることだし、父さんの後に着いて一階の奥にある父さんの書斎へと入る。
「その辺座って」
ここには一人掛けのソファーとPC用のデスクしかなくて、俺はソファーの方に腰掛けた。
父さんはデスクの上の鞄から、A4サイズの封筒を取り出し俺に差し出す。
「何?コレ」
「お前のパスポート」
「え……?」
パスポート?
「何でパスポート?海外旅行にでも行くの?悪いけど俺行けないよ?」
「違うよ、旅行じゃないよ」
「じゃ、何でパスポートなんか…」
「何でって、お前がアメリカに行くのに必要だろ?」
……………は?
アメリカ……?