秘密



「先生……」

「お前が今日帰ってくるって聞いたから、向こうのパンフとか資料とか、色々持ってきた」


「静、もう食べ終わった?」

「あ。うん。旨かった、ごちそーさん。高田先生、こんばんは」

「静君。風邪だって?」

「ははは。はい。疲れからか、ダウンしちゃいました」


母さんは部屋に入ってくると、トレイを下げた。


「ほら。茜…、静の身体に障るから、もう出なさい?」

「あ…でも…」

「先生もおみえだし、下でご飯にしましょう」


俺は兄貴の通帳をぎゅっと握りしめ、それをポケットに押し込んだ。


兄貴には後で話そう。
高田先生も来てるし、先ずは誤解を解こう。


「うん」


そう言って兄貴の部屋を出てリビングに戻る。


リビングのテーブルには既に夕飯の用意がしてあった。


「先生も食べてって下さいね?」

「あ…いや僕は…」

「遠慮しないで、一緒しましょう、先生」


父さんがリビングに入ってきて、先生をソファーへと促す。


「なんか夕飯時にお邪魔してしまって、申し訳ないです…」

「いいんですよ、大勢で食べる方が楽しいし、先生にはお世話になってるんですから」

「先生。一杯やりますか?母さんビール」

「いえっ、自分は車ですから」

「あら?それならお泊まりになって?」

「いやいや!明日も朝早いですし」


畏(カシコ)まる先生に、世話をやく両親。


とても今話を振る事は出来そうにないな……


俺は取り合えずソファーに座ると、話を切り出すタイミングを見計らっていたけど、なかなか思うようにならなくて、久し振りの母さんの手料理も、何を食べているのか、味さえしなかった。


ほぼ夕飯を食べ終えた頃。


「それにしても茜…、よく決心してくれたな」


きた。


「先生…、その事なんだけど…」

「向こうの先生にお前の試合のビデオ送ってたんだけど、それ見た先生が、お前に是非とも早く来てほしいって。お前、相当期待されてるよ。俺も鼻が高かった」

「茜はアメリカでやっていけますかね?先生」

「お父さん。大丈夫。茜はむしろ向こうの方が合ってると思います。数年後には凄いプレイヤーになってます。僕が保証しますよ」

「あら、大変。そんなに有名になったりしたら、うちにマスコミとかが来るかしら?」

「ははは。でしょうね?あり得ます」

「やだ…ねぇ、お父さん、家の外壁塗り替えましょうか?随分色褪せてるし、テレビに映るかも知れないし」

「おいおい、母さん…、話が跳びすぎだろ?」

「ははは。決して跳びすぎじゃないですよ、お父さん」

「先生まで…、あまり妻を煽らないでやって下さい。直ぐその気になってしまいますから…」

「明日業者に電話しようかしら……」

「おいおい」

「はははは」


ダメだ……


俺を置いて、勝手にどんどん話が進んでしまってる。



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