秘密









先生は帰ってしまい、父さんも明日は早いからと寝室に上がり、リビングには後片づけをする母さんと俺の二人。


ソファーに座り、テーブルには広げられたパンフ。


「茜?今日はもう遅いから、泊まっていくでしょ?」

「……え?……あ…うん…」

「どうしたの?茜、あなたさっきから変よ?ぼんやりして」


母さんがエプロンで手を拭きながら、テーブルを挟んで俺の前に座る。


「……アメリカに行くのが不安なの?」

「…………」

「奏ちゃんは何年でも待っててくれるわ」

「……奏が…そう言ったの?」

「そうよ」


何でなんだ……?
……奏…


俺にはそんな事一言も言ってないのに、俺以外のやつには、俺がアメリカに行く事を了承していたなんて……


今のままの関係で俺がアメリカに行ったとしたら、俺達の関係はどうなってしまう?


「奏ちゃんと、きちんと話して聞いてみなさい?そしたら不安なんて無くなるから」


優しく笑う母さんに、俺はそれ以上何も言う事が出来なかった。


今の奏にそんな事を聞くなんて出来ないし、聞いた所でそれは奏がヨースケや母さんに言った事とは違う。


記憶を無くす前の奏が何を思ってたかなんて、本人にしかわからない。


奏の本心を知るのが怖い……


今となっては、奏が全て忘れてしまっている事が、俺にとって、都合のいい事のように思えてくる。


俺は何処まで自分勝手な奴なんだろうか……


「俺…、風呂入ってくる…」


そう言ってまだ何か言いたげな母さんをリビングに残して、二階へと上がる。


兄貴の部屋をノックしようかと片手を上げたけど、それも躊躇われて、結局兄貴の部屋には行かずに自室に入り、ポケットに入れたままにしていた兄貴の通帳を取り出し、開いてみると。


そこにはまだ高校生の俺なんかが、見たこともないような金額の数字が並んでいた。



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