貴方の恋人になりたいです
そうだけど、でもこんなの…
気づけば、瞳に涙が滲んでいた。ばれないように俯き、唇を噛んだ。
はぁ、とため息が聞こえたかと思うと、両方の頬を大きな手に包みこまれ、上を向かされた。
目の前には、困ったような笑みを浮かべた彼のドアップだった。
「せやから言ったやん。『なんでもなんて言うもんやない』って」
親指で、目尻に浮かんだ涙をそっとぬぐってくれた。
「ほんとに出ていくの?」
「ああ」
「いつ帰ってくるの…?」
「わからへん。一年後か、十年後か」
「…………行かないで」
小さくそう呟くと、彼は驚いたようで、目を見開いた。
「まさか朔からそんな言葉が聞けるとは思わんかった」
自分でもびっくりだ。まさかあんな、すがるような言葉…。
「でも、堪忍な。いくら朔のお願いでも、こればっかりは聞けへん」
「どうしても……?」
「どうしても」
彼の目には、いや、表情は、見たことがないくらい真剣で、その決心が揺らぐことはないことを悟った。