貴方の恋人になりたいです



相手に背を向け、帯をたんすへしまっていると後ろに気配を感じた。


振り向くと、彼の胸板とぶつかるくらい彼は私に近い距離にいた。


「な、に…」


思わず声が掠れてしまった。これではまるで相手を怖がっているようではないか。


「別に?」


ニヤリと口角をあげ、彼は言った。


「なんでもないなら離れて。近いっ!」


ぐいっと相手の肩を押して逃げようとするが、相手はやはり男でびくともしない。


また彼はくっくっと笑う。


キッと睨みつけると、今度はあの胡散臭い笑顔でにっこり笑う。


これだ。


この張り付けたような笑顔が昔から嫌いなんだ。


なにを考えているのかまったくわからない。


そして、人を寄せつけない雰囲気をかもしだす。


まるで心の奥底を悟らせないように……。


「那智からなに貰ったん?」


「なんだっていいでしょう。」


どうせ誕生日を忘れたあなたには関係ない。


「おおかた、くしとかんざしやろ?」


彼はぴたりと言い当てた。思わず相手の顔をまじまじと見てしまった。


なぜわかったんだろう。


貰ってから、まだ誰にも言ってないのに。





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