王子様の溺愛カメラマン
キャンプ場からほどない茂みで私は日向くんを発見した。


日向くんは草の上にうつ伏せになった状態で、大きなカメラを構えていた。


「日向くん、そろそろ晩ごはんだよ~」


だけど私の声には全く反応を示さない日向くん。


「日向くん?」


私は日向くんの横で彼と同じようにうつ伏せになると、その横顔を覗きこんだ。


「ねぇ、何して」

「シ――」


日向くんはカメラを構えたまま横目で私を見た。


「見てみろよ」


「ん?」


日向くんのカメラの先を見ると、茶色いセミがよちよちと地面を這っていた。


「なにこれ?セミ?」


「うん。セミの幼虫。今から木に登って羽化するやつだよ」


ふーん、と思いながら日向くんの横顔をまた見ると日向くんは真剣な表情で目をキラキラさせていた。


白い肌に色素の薄いさらさらの髪の毛。


日向くんの横顔はクラスのどの男子よりもかっこよくて、私はちょっとドキドキした。


「ね、このまま羽化するとこ見れるの?」


「それは無理だなぁ。羽化は夜にしかしないから」


「え~そうなんだ。ガッカリ」




セミの幼虫はゆっくりゆっくりと草の間を進んでいる。


日向くんは辺りが薄暗くなるまでカメラでそれを追っていた。


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