たとえばセカイが沈むとき


 軽々しい反応は見せなかったつもりだが、僕の心中を見透かしたように男は満足げに目を細め、軽く数回顎を引いた。

「過去に戻る決心がついたら、ここへ」

 手渡されたカードは黒く、白抜きで『零』とだけ書いてある。名前だろうか。それとも店かなにかの名前か。たったそれだけで、住所も何も記載されていない。

 カードの裏面を見ると、情報が入ってる筈のチップは嵌め込まれていた。

 カードから視線を上げると、男は既に立ち去ってしまっていた。

 チップを読み取る為に、カードリーダーへかざす。

『Ray Bart(レイ・バート)』という文字、それからホログラムで小さな建物が浮かび上がった。

『零』というのは初めに浮かんだ通り、名前だったらしい。漢字表記は、彼のこだわりなのだろう。

 建物の外観は、なんてことない普通の住宅だ。そして付近の地図もあった。

 自動車があれば、このカードを差し込むだけで、この建物まで連れて行ってくれる。


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