たとえばセカイが沈むとき
「しかしまだ試作品なのです」
男の話では、未来へは自ら行ったらしい。しかし過去へ飛んだときの現在への影響も知る為に、自分は現在にとどまったまま、過去へ行って帰る者を探しているのだという。
要は人体実験という訳だ。だから自らを“悪魔”と名乗ったのか。
何人かに声を掛け、偶々僕がここへの一番乗りだったらしい。
サンプルとしては何例も欲しいところだが、まずはひとり。そんなところだろう。
「過去へ行く原理としてはこうです。世界には日付変更線というものがありますね。西から東へ行くと遅れ、逆なら進むというアレです。では瞬時に何回も日付変更線を跨いだらどうなるか。どうなると思います?」
瞳の奥がキラリと光った。僕が口を開くのを待っていたが、何も返さないのをみてとると、話を続ける。顔つきは研究者のそれだ。
「理論上では、日付がどんどん遡ります。ああ心配ありませんよ。とてつもない速度に達するとはいえ、Gは殆ど感じない設計をしてあります。そこが一番苦心した点ですから」