たとえばセカイが沈むとき


「どうして……」

 タイムマシンが止まったと同時にこぼれ落ちた言葉は、チサトの耳に届く事はなかった。

 一年という年月の引き起こす風化が、彼女の身体へ一気に訪れたのだった。離さなかった僕の手のなかで、チサトとの未来が脆く崩れ去る。

 鼓膜をすり抜けた圧搾音は、レイがタイムマシンの扉を開けたものだろう。

 レイは全てを察したようで、目にとまる情報を、脳へ刻みつけるかのように小さく呟いていた。

 虚ろに向けた視線の先には、こめかみを押さえてひとつ唸る彼が、整理した思考を口にし始める。一見、荒唐無稽に見えるそれが、レイの整理術なのだろうと、ぼんやりと眺めながら思った。

 そんなどうでもいい事に思考が動く。肝心な事には何一つ思いつきやしないのに。

 何度も目の当たりとなってしまったチサトの死に、心は悲鳴を上げている。ぐるぐると頭の中を回る悪夢で、はちきれそうだ。なぜ、という言葉ばかりがよぎり、今にもプチンと切れそうな緊迫感ばかり。

 僕の感情は、空虚だった。


< 43 / 44 >

この作品をシェア

pagetop