forget-me-not
エンドロールが流れる頃になっても、映画の内容は一切頭に入らずに終わった。
私の頭は5月病にでもかかったようにどんよりと曇り気味で、先日の森での出来事を、何度もエンドレスリピートしていた。
黒い画面に白い文字が流れるように踊る。しんみりした映画だったわりにはポップなエンディングが流れていて、リカと私はそれを見つめていた。
「…いいんじゃない?」
『…え?』
カフェオレの入ったマグカップを両手で握りながら、私のほうは見ず、画面に視線を向けたままリカが呟いた。
「…黒川くんのこと。いいんじゃない、って」
『あ、あぁ。それ、なんだけど……』
私はリカに森での出来事を一つ残らず話した。
もっとも懐疑心の強い彼女がこんな空想じみた話を信じてくれるか不安ではあったけれど。
「ふーん、…でもっ、まるでファンタジーねっ」
案の定、すべて聞き終わったあとのリカは軽く吹き出し、ケラケラと笑っていた。
やっぱり、と半ば諦め半分に私はため息をはく。
『……もう、会えないのかな』
ついたため息が引き金になって、あれからずっと消えない私の不安が口をつく。
それを見たリカは形容しがたい表情でこちらを見ていた。
なにかを知っているような、珍しく真剣で、落ち着いた顔つき……。