もう会えない君。


「いらっしゃい」
優しそうに微笑む店員さんの横を通って窓際の一番奥の席に向かい合わせで座った。


向かい側に座る皐は俯いたままで話を切り出そうとしない。
むしろ話辛そうにしていて…やっぱり良い話ではなさそうだ。


でも、なぜ話を切り出さないのかが分かったのはすぐの事。
一人の店員さんが私と皐の座る席に水を持ってきて、「ご注文は?」という言葉を発したから多分、皐は店員さんが去ってから話を切り出そうとしたんだと思った。


メニューも見ないで「凛ちゃん、オレンジジュースでいい?」と皐に聞かれたから頷くと皐はオレンジジュースとコーヒーを注文した。
店員さんは小さく会釈してにっこり営業スマイルを見せて奥の方へ引っ込んだ。


水を飲んで一息吐いて意を決したかのように顔を上げる皐。
多分…今から切り出される話の内容は決して良い内容ではないだろう。
いつも笑ってる皐がこんなに真面目な顔をしてるって事は良い内容じゃないって事。


だから私も意を決して皐に視線を向けた。


「……唐突なんだけど隼とどう?」
切り出された話の内容は意外なものではなかった。
だけど答えに悩む自分が居る。
上手くいってる、と言うべきなのか…上手くいってない、と言うべきなのか…分からない。


どちらも正しいと言えば正しい解答だからこそ答えに苦戦する。


「隼とは…最近、あまり会ってない」

「学校でも?」

「学校では会ってるけど放課後になるとすぐ帰っちゃう」

「…そっか」

「何か、」

「ん?」

「何か知ってるの?」


私がそう聞くと皐は口を閉ざした。
しばらくして注文したオレンジジュースとコーヒーがテーブルの上に置かれた。
皐はコーヒーで渇いた喉を潤した後、閉ざしていた口を再び開いた。
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