もう会えない君。


「……え?」
一瞬にして沈黙と化した室内にはやけに私の声が響いたように聞こえた。


「だから、帰ったよ?」
肩を落とす悠の隣で私は唖然と立ち尽くしていた。
そんな私達の姿を見て、皐は首を傾げていた。


「そんな……っ」
今にも座り込んでしまいそうになったけど震える足に私は力を入れた。


「何か、あったの?」

「………」

「………」
皐の問いに私と悠は口を閉ざした。


まだ…近くに居るかもしれない。
数十分前に出たなら、まだ……。


小さな願いを託して私は病室から飛び出した。


「ちょっ、凛っ!」
後を追い掛けて来ようとした悠に私は、「皐と一緒に居て!」とだけ言い残して階段を駆け下りた。


一段、一段の段差が邪魔に思えてくる。
だけどエレベーターは階段より遠い位置にある。
そんな所まで走ってる暇はなかった。


急いで向かう。
出入口に差し掛かった所で周辺を見渡してみたけど隼らしき人物は居ない。


もう一度、電話を掛けてみたものの留守番電話に接続された。


私は迷いを捨てて外に出た。
< 290 / 321 >

この作品をシェア

pagetop