【短編集】闇に潜む影
「今日は、・・・何かこういう風に言うのも変だけど、・・・楽しかったよ」
私たちは、私の暮らす施設の前にいた。
“送っていくよ”
施設の人以外と、生まれて初めて施設までの道を歩いた。
他愛のない会話をした。
好きな本。
好きなマンガ。
明日の時間割。
彼はうっかりしているのか、
来週までに提出予定の進路希望書の締め切りを知らなかった。
短い時間だったけど、凄く楽しかった。
両頬が少し疲れたけど、それはとても心地よい疲れだった。
「僕も、君に会えて良かったよ」
その言葉は、私の心に染み込んでいく。
じわじわと感じる暖かい何かは、すっかり私の気持ちを軽くしていた。
「じゃあ、また明日、会おうね」
私がそう言って手を振ると、彼は何も言わず、ただ優しく笑っていた。
すると突然、私の右手が彼の両手で強く握られた。
「生きることも、死ぬことも、君の自由だ。
生きていることが、絶対的価値を有するとは言えないと思う。
・・・だからこそ、いつでも自由だと思えるからこそ、
解放される何かがあるように、俺は思うんだ」
突然のことで驚いたが、私は、笑いながら頷いた。
「・・・難しいこと、言うんだね。でも、・・・分かったよ」
「良かった」
彼は握っていた私の右手をそっと放した。
「・・・あぁ、あと、1つだけ」
彼は一瞬寂しそうな顔をしたが、直ぐに笑顔に戻った。