【短編集】闇に潜む影
「幸せなんて、“手に入れるもの”じゃないよ」
「え?」
「探したって見つからない。それは、誰にとっても同じだよ。
・・・幸せってさ、・・・」
そこまで言って、彼は私の耳元で、その続きを囁いた。
聞こえた言葉に、私は目を丸くして彼を見つめると、
彼は私に優しく微笑んでいた。
その笑顔は、私がこれまで生きてきた中で、最も優しく、美しいものだった。
きっと忘れない。
一生、この笑顔は、私の心に残っていく。
私はそう、確信していた。
「・・・じゃあ、バイバイ」
彼が手を振りながら、私から遠ざかっていく。
その背に送る言葉を、私は選んだ。
だからこそあえて、この言葉を口にした。
「またね」
「・・・あぁ」
遠くなる彼の後姿を自分の目に焼き付けるように、私はずっとその場で佇んでいた。
「そっちこそ、・・・約束しなさいよ」
私の傍らを吹き抜ける緑の風に乗せるように、私は言葉をこぼすのだった。