【短編集】闇に潜む影
「おい、聞いてんのかって私はおまえに言ってるんだよっ!返事しろよ!」
もう一度、「それ」の頬を叩く。
同じ音がした。
だけど「それ」は、何も言わずに、ゆっくりと頭を1度下げる。
ムカつく、ムカつく、本当にムカつく。
誰のおかげで食べられると思って。
誰のおかげで雨風を凌げるのかと思って。
自分じゃ何もできないくせに。
さも分かったような顔をして、私のことを見下して。
「私の言うことすらまともに聞けないなんて、本当に悪い子だね!」
私は胸ぐらをつかんだまま、それの頬を何度も何度もたたいた。
力任せに叩かれる「それ」は、ただ左右に殴られるがままに頭を左右に振るだけ。
叩くたびに聞こえてくる音だけが、狭い部屋に響き渡る。