君が笑える明日
いちごはヒロの顔をただ黙って見つめるだけだった。

「患者……」

ヒロが見る限り、いちごの具合が悪そうには見えない。
首を傾げると、いちごも真似をして首を傾げた。

「ところで、せっかく隣人になったんだし、名前を教えてもらえるかな?」

「あ、隣の部屋の岡島 裕之です。それから……」

太一の言葉を待ったが、そこに太一はいなかった。少し部屋を見回すと、キョロキョロと部屋を見て回っている。

「あの落ち着きのないやつが、一階に住んでる二宮 太一です」

ため息まじりに言うと、三波は笑った。

「そう。どうかよろしく」

「三波さんは医者ですか?」

「ああ。精神科医だよ。田舎から転勤して来たんだ」

精神科……。
ということはいちごは精神を病んでいるということだろうか。
顔に出さずに考えていたはずなのに、三波は悟ったように説明した。

「声がね、出ないんだよ。いちごは」
< 9 / 12 >

この作品をシェア

pagetop