『霊魔伝』其の壱 木の章
「待っていたわよ。夕べ何度も連絡したのよ。あんな事の後だから、塩原先生も心配していたわ。それで、風邪の具合はどうなの。熱はあるの。」
突然零次朗の額に百合が手を当てた。
「何をするんだ。熱なんか無いよ。」
「あら、本当。じゃあ、仮病なのね。寝過ごしたんでしょう。」
「違うよ。それより、先生はどんな具合だった。」
「別に夕べは何もなかったみたい。」
始業のチャイムが鳴った。零次朗は席に着いた。
《俺は屋上へ行っている。あの霊魔の所に行っているぞ。》
小太郎は囁くと、屋上へ行った。

次の時間は数学だった。
数学担当の教師が教室に入ってきた。見た目は数学の教師には見えなかった。
髪はオールバックにして後ろで束ねている。口ひげを生やしているが、それがいっそう風貌を怪しくしている。学校よりも夜の繁華街が似合いそうだった。教壇に立つと大きく名前を書いた。
「数学担当の成田慎司です。一年間宜しく。では、教科書を開いて。」
零次朗は成田の授業がほとんど耳に入らなかった。昨日からのこと、彩花がインターネットで調べてくれたこと、そして屋上にいる田嶋理恵子のことで頭がいっぱいだったからだ。
昼休みになると屋上へ向かった。何人かが屋上で弁当を食べていた。零次朗は人気のない所で、彩花がプリントしてくれたものを読んだ。それは学校の怪談というタイトルで、学校にでる幽霊を特集しているサイトに乗っていた記事だった。それによると、十年ほど前に零次朗の高校である事件が起きて、それ以来幽霊が出るようになったというのだ。事件とは記事を要約するとこうだった。

《東京の某高校内で女子生徒が一人行方不明になった。その生徒は田嶋理恵子十六歳。夏休みに、部活のため学校へ行くといって家を出たままいなくなった。当日学校で目撃者がおり、学校に行ったことは間違いない。部活は美術部で展覧会に出品する油絵を描いていたらしい。警察も学校中を捜したが見つからなかった。それ以来、夜になると学校に幽霊となって現れては、自分の油絵を捜しているという。》

零次朗は読み終わると、プレハブ小屋に向かった。小太郎もそこにいるはずだ。
「何処行くの。お昼食べていないでしょう。」
いきなり声を掛けられて振り向くと、百合が笑っていた。
「はい、お弁当。いっしょに食べましょう。」
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